「 意思疎通支援事業における現状と提案 」

公益社団法人 岡山県難聴者協会 会長  森 俊己

 先日、岡山県こども・福祉部障害福祉課主催の「意思疎通支援事業担当者会議」において、実施主体である市町村に対し制度説明や事例紹介を行うにあたり、各自治体担当者の前で、岡山県難聴者協会として意思疎通支援事業に対する意見を述べる機会を得ました。私たちが抱える課題を皆さんと共有したいと考え、会長として私の意見の一端を、敢えて巻頭言としてお伝えしたいと思います。少し難しい話になりますが読んでください。

①手話を使わない聴覚障害者に対する支援
 本事業に関する県のアンケート調査によると、聴覚障害者数のうち手話を使う人の割合は約20%です。加齢性難聴の増加も社会現象として看過できない状況であり、手帳の交付対象にならない中・軽度難聴も含めた意思疎通に関する福祉対策が必要ではないかと考えます。

②サービスの適用について
 意思疎通支援事業は、障害者及び障害児が基本的人権を享有する個人としての尊厳にふさわしい日常生活又は社会生活を営むことができるよう定められた障害者総合支援法に基づいて行われ、地域の特性や利用者の状況に応じ、必要な支援が行われるものと理解しています。残念ながら利用できるサービスは一律ではなく、地域格差があり、適用範囲が異なっているように感じます。
 この事業については平成25年、厚生労働省から「意志疎通支援事業モデル要綱」が通達されています。その派遣の対象者は「意思疎通をはかる事に支障がある障害者等その他の日常生活を営むのに支障がある障害者等」であり、「等」がついているために、必ずしも障害者手帳所持を条件としていません。派遣の内容は、「聴覚障害者等の日常生活及び社会生活を営むために必要なもの」であり、その後の但し書きにより「社会通念上好ましくないもの」と「公共の福祉に反するもの」以外は派遣対象であると読むことができます。つまり趣味・娯楽の類も派遣ができます。誰も取り残さないためにも、すべての自治体でモデル要綱に即した柔軟な適用を望みたい。

③要約筆記による意思疎通支援について
 聴覚障害者の意思疎通支援として要約筆記があり、誰でもすぐに利用できます。把握されている聴覚障害者数に比べ派遣件数が少ないのは、サービスの周知が社会的に不足している事と聞こえに不自由のある当事者の間でも要約筆記の存在が知られていないのではないかと危惧します。また、難聴という障害理解が進んでいないのではないかと思われます。各地域でどのような取り組みをされているのか知りたいと思います。

④支援者の表記について
 ほとんどが「手話通訳者等」と記載されていますが、各障害の特性により、要約筆記者、ガイドヘルパー、点字等々、多種にわたるにもかかわらず「手話通訳者等」で一括りにした表記では、一般市民に伝わりにくいと考えます。また、行政の窓口となられる方々にも実情をご理解いただきたいと心から願っています。

⑤遠隔手話サービス等について
 分かりにくい名称ですが「等」となっていて要約筆記も含まれます。手話による実施が進みつつあるのに対し、要約筆記では依頼件数、実施件数ともに統計上「0」となっています。今後、災害時などで必要性が高まることが必至であり、各自治体でも積極的に取り組みを進めていただきたい。また、当事者、支援者の両面から必要な準備ができるようにしたいと考えています。

 岡山県難聴者協会は、当事者同士をつなぐ居心地の良い場所でありたいと考えていますが、同時に聴覚障害に対する福祉の増進を目指す運動団体であることを忘れるべきではありません。皆さんからの多くの意見を待っています。たくさんの声が集まれば、社会を変えていくことができます。皆さんの声をまとめ、実現に向けた道筋を開いていくのが協会としての役目だと思っています。どうかご意見をお寄せください。