10月号巻頭言「生きた言葉を紡ぎ出す」

生きた言葉を紡ぎ出す

 

岡山県聴覚障害者センター所長  中井 智子

 

「日本語って美しい!」

友人と映画を見たときに感じたことです。字幕付きの映画の一場面で、英語のフレーズが繰り返されていました。しかし、日本語の字幕では、その表現が、繰り返されるごとに変化し、その場面、その人の心の内を見事に表現していると感じたのです。もちろん英語では、同じ言葉の繰り返しであっても、表情、強弱などの要素が加わり、豊かな表現につながっていくのだと思います。それでも、単純ながら、日本語は豊かで、生きた表現が出来ることに心打たれたのです。

また、字幕が付き、日本語に吹き替えがされているドラマを見て、台詞と字幕を見比べながら、文字に置き換えることの難しさ、文字で表現することのよさを感じたこともありました。「ここは字幕の表現の方がぴったり」とか、「字幕にできにくいここの相づちは、台詞ならではの表現」といろいろなことを勝手に思いながら、楽しんだのです。

このようなことをふと思い出したのは、私自身が字幕挿入にかかわるようになったことにあります。岡山県聴覚障害者センターの業務の中に、映像作品の自主制作があり、その作品に字幕を挿入すること、また、他機関との連携においてセンターのライブラリーにといただいた作品に字幕を挿入することがあります。

字幕挿入の専門家とはいえないセンターの職員が研修をし、その任に携わっています。語り手の言葉をそのまま文字に置き換えることは素人の私にも可能なことかもしれません。しかし、それを字幕として、作品に付けていくことは大変難しいことです。正確に伝えたい、語り手の持つ雰囲気を大事にしたいと欲張ると、分かりやすさとかけ離れてしまいます。また、文字数や時間等の制限もあり、言葉に置き換えていく難しさもあります。

それでも、正確で、洗練された表現とともに、作品の持ち味を活かす表現にこだわり、生きた言葉を紡ぎ出していきたいと考えています。

聴覚障害のある方へ、よりよい作品がお届けできるよう、センター職員は、日々研鑽を積んでいます。センター制作の作品にもご期待ください。