公益社団法人 岡山県難聴者協会 会長 森 俊己
先日、資料を整理していたら2通の手紙が出てきました。今から十数年も前の手紙です。
差出人は、岡山県難聴者協会を訪ねて来られた難聴者。最初は聴覚障害者センターに相談に来られたのですが、耳マークが欲しいということで、当協会の事務局を紹介された方でした。いろいろ話をしていくと、病弱のご両親を抱え、経済的にも苦しい中、彼女なりに頑張っていることが伝わってきました。話を聞けば聞くほど、社会的にも孤立に近い状況にあることがわかり、私たちにできることはないかと模索しましたが、その場だけでは限りがあります。医療機関の紹介・社会制度の案内等で彼女が気兼ねなく相談、交流できる協会に誘いましたが、入会には至りませんでした。その後、ご両親も亡くなりましたが、届いた2通の手紙には「仕事も見つけて、私の周りにみんながいてくれるので前を向いて頑張っていきます」とありました。私たちと話すことで、少しは応援できたのかなと思いながら、手紙をしまいました。彼女との接点がなくなった今でも、どうしているだろうかと気にかけずにはおられず、私たちの力が及ばなかっという思いを拭うことができません。
随分と時は経ちましたが、今も彼女と同じような境遇の方が県下に散在していることを想像するに難くありません。耳鼻科医師の講習会や聞こえに関わるイベントには思いがけないほど多くの方が参加されており、会場での質疑応答に関心の高さを感じます。しかし、多くの方が「難聴」に対応できていないのではと思うのです。加齢性難聴の方も増えています。難聴者協会の会員であるか否かに関わらず、「聞こえにくくても暮らしやすい社会」にするためには、私たちが社会に発信していく以外にないのではないかと思います。目を見張るような通信技術の発展は、難聴者にとって大きな福音ですが、一方で、直接顔を合わせることのない、希薄な関係になっているようにも感じます。
だからこそ、互いに会って、顔を合わせてとりとめもない話をすることが、どれだけ人の生きる力になるかを思うのです。

