生活を豊かにする結晶性知能
川崎医療福祉大学 福田章一郎
人間の知能は年をとると、どうなるのでしょうか。知能には、流動性知能と結晶性知能があります。新しい場面への適応に必要な集中力、思考力、暗記力、計算力など、主に考えるときに使われる知能は流動性知能と呼ばれ、20歳過ぎまでは発達しますが、徐々に衰えていきます。それに引きかえ、結晶性知能は、60歳ごろまでゆるやかに向上をしていきます。学校、仕事、日々の生活での趣味、社会活動などを通して長い時間をかけて培われた知能であり、特に、個別の知識、特別な知識、運動技能が含まれます。そのため、齢を取るとともに増えていき、低下が目立つようになるのは80代後半になってからです。
江戸時代の平均寿命をご存知でしょうか。「人間五十年、化天(げてん)のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり」は織田信長で有名な一節ですが、当時は50年にも満たなかったようです。したがって、齢を重ねた人は、以前は長老、あるいは物知りと呼ばれる存在で、敬愛されていました。長年の知識や経験に基づくその言葉には、やはりきらりと輝くものがあったのだと思います。その知能が、結晶性知能と言われるものです。
現代では、頭も体も若々しく、蓄積した学習や経験を活かし、生き生きと齢を重ね、生活をされている方を多く見かけます。高齢化社会において、結晶性知能はますます貴重になってくると思われます。どちらかと言うと知恵と言った方が良いかもしれません。
知恵とは、経験を積んでこそ豊かになるものであり、さまざまな難問を解決するとき役に立つものです。知恵があると、性格が外交的、好奇心旺盛になり、自らの判断力が上がるのは当然ですが、さらに良いことにはその知恵が、若い世代に向けられ、活発に交流ができるようになります。
高齢化社会といって、マイナスイメージばかりが取り上げられますが、これからは、若い方と積極的に関わり、知恵の活用が求められる時代です。自ら獲得した知識技能の伝承を通して、障害者優先調達推進法への貢献も期待されています。もう年だということばは禁句です。結晶性知能に定年はありません。

