「誰もが社会の一員」

                                                日本耳鼻咽喉科学会岡山県地方部会

                                                社会福祉医療委員長 大道卓也

日本は自然科学的論文数でも今やアメリカ、中国、ドイツに次ぐ四番目に転落しています。世界一の財政赤字の国であり、さらに人口減少と高齢化のため、日本の国力自体は衰退の一途をたどっています。第二次大戦前までは、平均寿命も短く、法律でも家督を長男に譲り、現役を引退し、その後は今で言う地域のボランティア活動を行う構図で各年代での役割分担ができていたようです。戦後は高度成長期があり、財政状況も良く、しかも平均寿命も今ほど長く無かったので老人も少なく、また、支える人の割合が多い時代でした。そのため、少数者である老人への配慮の感覚が働いていました。

一方、バブル崩壊後は不景気になり、その後、様々な経済政策により、最近は戦後最長の経済成長が続いていると報道されていますが、やはり財政難は解消されていません。終身雇用制が減り、増税や福祉負担の増額などで必ずしも豊かさを感じることができない若者が増加しています。街で昼間に多くの老人を見かけたとき、自分たちの境遇と照らし合わせ、批判的な気持ちになることも理解できます。一番恐れるのは老人対若者のような対決構造が構築されることです。地域行政で高齢者は、高齢者としてできる仕事や社会貢献を通じて、若者たちとの接触ができる環境を作ることが急務と思われます。国の赤字財政が続く中、福祉に関しても理性的にはあってはならないと思いますが、福祉の援助を受ける人たちが、負担と思われ、援助を受けない人たちとの対立を招くことを懸念します。福祉を受ける立場であろうとなかろうとそれぞれの能力を社会のために役立てる努力を続けることが大切です。

妹尾会長が「耳の日の行事」でゴヤについての講演をされましたが、ゴヤが中途失聴者であったことやゴヤの絵の構図などを分かりやすく解説していただきました。難聴者、聴者ともに大変興味深い内容でした。また、最近、世界的に有名なイギリスの医学論文に中年の難聴が認知症の最も高い危険因子であることが掲載されました。厚労省でも難聴対策が認知症対策につながるとの認識が始まりました。今、AI(人工知能)の発達は目覚ましいものがあります。多くは聴者が主体となっている補聴器機の開発や制作の分野にももっと聴覚障害者にも加わっていただきたいものです。聴覚障害と言うハンディキャップがあっても、これから益々活躍する場の広がりが期待されます。