あらゆる人にやさしい社会づくり 

―あらゆる人にやさしい社会づくり 

                 岡山県耳鼻咽喉科部会 福祉医療委員長  大道卓也

私が最初に努めた病院の看護婦さんのご家族と私の家族は実に36年間の付き合いがあります。ご主人は造船会社に造船工として長年務められ定年退職、看護婦さんも自分のやりたいことがあるからと、総婦長になるのをやめて惜しまれながら退職されています。

長く米国に留学しておられたご長女が日系グアテマラ人の方とご結婚されています。グアテマラでは通常はスペイン語が使われています。しかし、山岳マヤ族の子供たちは貧困のため小学校教育さえ受けられず、スペイン語の読み書きできません。そのため、都市部で働くことができず貧困のサイクルが続いています。このご夫婦はいわゆる富裕層ではなく、ごく普通の退職後夫婦です。自分たちの年金や一時的に働いた所得の中から、年に何十万円かで山岳民族の子供たちのフォスターファミリーになっています。部屋にはその子供たちの写真が飾られていて「この子は今年小学校を卒業するのですよ。スペイン語で手紙をくれました。」と嬉しそうに説明してくれました。また、手の込んだカラフルな山岳マヤ族の織物をバザーを通じて販売し、その売り上げも送金しています。私も医院の忘年会の景品にしていますが、なかなか手に入らない素晴らしい作品です。

このご夫婦の支援活動はグアテマラの子供たちだけではありません。岡山市でも両親の暴力などで家庭での食事もままならない子供たちがいます。その子供たちにも農家や企業を手弁当で回り、バザーなどで集めたお金で安く手に入れたお米屋やおやつなどを提供する活動もしています。

ご主人は「私は今まで生きてきて、良いことはしていません。少しでも人のためになれば、死ぬ時ぐらいはひょっとしたら天国に行けるかなと思い、やっているんですよ。」と笑いながら答えられました。その眼には優しさがあふれていました。善行に大小はありません。思いやりの積み重ねが人種、宗教、言語などのあらゆる違いを乗り越えて、心の通う社会をつくります。難聴者に優しい社会ではなく、難聴者にとっても、すべての人にとっても優しい社会づくりが望まれます。