3月号巻頭言 読話を通した学生の育ち

読話を通した学生の育ち         川崎医療福祉大学  福田章一郎
言語聴覚療法のなかで一番長い歴史をもつのはろう教育です。1760年にはフランスのド・レペを始めとし、各国でろう教育が始まりました。日本でろう教育が始まったのは明治維新直後の1880年前後で、同時期にはすでにアメリカではろう者の大学であるギャロ‐デッド大学ができていました。
40年も前の話で恐縮ですが、私が受けた読話の講義は、読話の活用法を理解するため、口形を読み取り、記号にするものでしたが、口形と音を結びつけるのは容易ではありませんでした。読話が可能となる過程では、音(モーラ)を口形、さらには文字へとつなげるための視覚認知力をどう高めるかが大切になります。
コミュニケーション講座に参加する学生さんも、最初はどうしても口形を意識して情報を伝えようと必死です。口形のみに気がいってしまい、口形をはっきり見せること、伝わること、相手を見ること、状況を見ること、伝わって共感することなど考える余裕はありません。しかし、少しずつゲームを進めるなかで、コミュニケーションの大切さに気づき、意味情報の伝え方や知識の活用法に気づくようになります。言語指導のなかで活用される、ロゴジェンと呼ばれることばの連想関係、つまりヒントの出し方が工夫できるようになります。会話の情報は、ただ話しているだけでは伝わらないという経験は大変貴重です。
読話は、語音明瞭度が改善し、話の内容が伝わりやすくなることでQOLが向上することが目標ではあります。しかしそれ以上に、読話は少しでも分かりやすくという気持ちに気づくこと、つまり人を思いやり、絆を作る一つの大切な機会であると思います。教育は未来社会への効率のよい投資とも言われます。講座を通して学生さんが自分たちの役割に気づくようになってくれているように感じています。