2020年8月号巻頭言

コノ頃都ニ流行ルモノ 

医療法人さくら会 早島クリニック耳鼻咽喉科皮膚科 院長 福島邦博 

 建武元年の「二条河原落書」は、この後に「夜討(ようち)・強盗・謀綸旨(にせりんじ)・・・」とリズミカルな七五調の文章が続いて、当時の混迷した世相・風俗を軽やかに批判しています。新型コロナウイルスの文字通り「流行」によって、生活や文化までが影響を受けた令和2年の新宿あたりに落書を出すならば、「マスク・消毒・テレワーク」と続けられるところでしょうか。

 口形を隠し、音声の明瞭度を下げるマスクの着用は、難聴者の生活に大きな影響を与えますが、テレワーク(情報通信機器を使って自宅等で柔軟な勤務を行うこと)の広がりもまた様々な影響を与えます。児童発達支援事業所キッズファーストでも、4月の緊急事態宣言の間には遠隔指導(テレプラクティス)によって、主に県外から通ってくる子どもたちのためにインターネットを介した言語指導を行っていました。米国言語聴覚士協会(ASHA)は、遠隔指導に関わる10項目からなるチェックポイントを示していて、私たちもその項目に従って慎重に遠隔指導を開始していく予定でした。ところが実際に始めてみると、新しいテクノロジーに対して戸惑う大人たちを他所に自力でさっさとインターネットに接続し、あっという間に参加してくれました。そのうちには、出演者が画面上で登場することも多い最近のテレビの影響もあってか、画面上での方がより課題に集中して参加してくれる様になりました。機種によっては、Made for iPhoneで代表されるように最初からタブレットに直接接続できる人工内耳も多いので、ネット経由でも聞き取りに不安を感じることが少なかった様です。こうした様相を見るにつけ、子どもたちの可能性は大きくて、大人たちの限定された体験から語ることによって将来の可能性をしぼめることが無い様に注意しなければと、と改めて感じました。

 さて、冒頭の二条河原落書では、この次は「召人・早馬・虚騒動(そらさわぎ)」と続きます。情報通信機器は便利ですが、一方で1300年代の「早馬」とは比べものにならないくらいのスピードで「そらさわぎ」を拡大させる凶器でもあります。ネットとの付き合い方も含めて、コロナ後の時代を見据えた指導を考えて行きたいと思っています。