巻頭言2019年11月号

高齢者の補聴器装用にあたって

 

藤本耳鼻咽喉科クリニック  藤本政明

(岡山県医師会常任理事)

 

 

人生100年時代に向かって平均寿命は確実に伸び、今後補聴器を必要とする高齢者はさらに増えていくであろう。岡山県難聴者協会が創立50周年記念事業としてシンポジウム「加齢性難聴を考える」を企画されていることは、非常に当を得たことと思う。

加齢性難聴は徐々に聞こえが悪くなるため、本人は知らず知らずのうちに静かな環境に慣れてきている。そのような高齢者が初めて補聴器を装用した時、うるさいと感じるのはごく当然のことである。しかしこのことがよく理解されていないがために、補聴器装用を断念する人が非常に多いのが現状である。我々耳鼻咽喉科医の最も重要な仕事は、1)補聴器を装用するには、補聴器適合後できるだけ常時装用して少なくとも3か月間はトレーニングする必要があること、2)いくらうまく適合しても補聴器にはある程度の限界があることをきちんと患者に説明し納得してもらうことである。

しかし、高齢者がこのことを理解し補聴器をうまく使いこなせるようになるのは並大抵のことではない。言語聴覚士や認定補聴器技能者が患者さんの訴えを聞きながらその都度補聴器を調整していくだけでは不十分で、高齢者本人のやる気と家族の協力はもちろんのことであるが、本人と同じような状況にある補聴器装用者がお互いの経験や悩みを話し合う場が必要である。補聴器外来の待合室で診察を待つ患者さん同士が、お互いの経験や悩みを話し合うような場である。既にせとうち難聴者の会では「聞こえの講座」で、「家族団らんがわからない」「仲間との話に入れない」「人前に出るのがおっくう」などの悩みを抱える人たちを集め講演会を開催しているが、岡山県難聴者協会としても補聴器を装用するあるいはしようとしている高齢者を対象とした相談会を考えていただきたい。

2016年にできた岡山県医師会館「三木記念ホール」には赤外線補聴システムを設置しているが、まだ補聴器装用者に認知されていない。今後いろいろな場所に補聴支援システムが設置され、補聴器を装用した多くの高齢者が社会活動に参加できるようになることを希望する。