人工内耳に関する最近の話題

人工内耳に関する最近の話題

岡山大学医学部 准教授 假谷 伸

岡山大学で人工内耳の手術を主に担当されていた福島邦博先生が退職されたのを機に、私が人工内耳手術に携わるようになったのが2014年2月でした。人工内耳医療の歴史を振り返ってみますと、1960年ごろから欧米で人工内耳の研究が開始され、日本では1980年代に入って試験的に数人の患者様への人工内耳埋め込み手術が行われました。その後、1994年には健康保険適応が認可され、一般の保険診療の範囲内で人工内耳手術や術後のリハビリが行えるようになりました。現在、本邦での人工内耳装用者数は1万人を超えており、近年では日本で年間500人以上の患者様が新たに人工内耳埋め込み手術を受けておられます。

人工内耳手術を行うためには基準があり、難聴があれば誰でも受けられるというわけではありません。この基準は日本耳鼻咽喉科学会が全国統一の基準として定めているもので、成人と小児では若干基準が異なります。当初は非常に厳しいものでしたが、成人向けの基準も小児向けの基準も、徐々に緩和されてきて、最近では昨年、成人向けの基準が改定されました。現在の成人向けの人工内耳手術施行のための基準は以下のようになっています。

各種聴力検査の上、以下のいずれかに該当する場合。

1:裸耳での聴力検査で平均聴力レベル(500Hz、1000Hz、2000Hz)が90dB 以上の重度感音難聴。

2:平均聴力レベルが70dB 以上、90dB 未満で、なおかつ適切な補聴器装用を行った上で装用下の最高語音明瞭度が50%以下の高度感音難聴。

基準1は以前からのもので、今回、基準2が追加されました。身体障害者手帳6級を申請できる聴力が70dBですので、今回の改定で、身体障害者申請ができる人のうち最も難聴の軽い人でも場合によっては人工内耳手術を受けることができるようになりました。今までは補聴器を使うしか選択肢がなかった方々に、新たな選択肢として人工内耳を提示することができるようになっています。難聴の方々が、より良い生活を送ることができるように補聴器を含めた医療サービスが寄与してゆくことを願ってやみません。