セルフアドボカシ-

セルフアドボカシ-

新倉敷耳鼻咽喉科クリニック院長  福島邦博

 

平成30年のNHK朝ドラが決定しました。タイトルは「半分、青い」です。脚本家は北川悦吏子さんで、「ロングバケーション」等の脚本家として有名な方です。ご本人は聴神経腫瘍のために一側の高度難聴になっていることを公表されていますが、この「半分、青い」の主人公も小学生の時に片耳の聴力を失う、という設定になっています。北川さんの場合には一側難聴で片耳の聴力には問題が無いようですから、両耳の難聴の話にはならないのだとは思います。それでも朝ドラの視聴率は驚異的ですから、聞こえない・聞こえにくい、の現状を分かってもらうためにはよいきっかけになるのではないか、と考えています。「本人の口から語る」ということは、本当に迫力があるものです。

セルフアドボカシー(self-advocacy)という言葉があります。そもそも、この言葉の一部となっているアドボカシー(advocacy)という言葉には、「擁護」や「支持」などの意味があって、これにself-つまり「自分自身で」という言葉を一緒に使うことで、「障害のある当事者が、自分に必要な支援や要求、権利を自分で主張し、自分や仲間たちのために権利擁護活動を行うことである。」という意味を持たせています。身近な所では、騒がしいところでRogerのマイクを会話の相手に渡して話してもらうことがセルフアドボカシーですし、人工内耳の電池に対する助成金制度を作る事を目的に市町村自治体と交渉することがセルフアドボカシーです。

セルフアドボカシーを行うためには、コミュニケーションのための技術が必要です。「相手の立場と自分の立場をそれぞれ良く理解し、相手の立場を尊重しながら自分にとって必要なことを適切な形で主張すること」が必要です。いきなり「主張すること」と言われても気後れしてしまう日本人(そして聴覚障害のある日本人)にとってはどうしてもむず痒いような感覚がする言葉かもしれませんが、それでも障害受容、つまり「障害はあるものとして我慢しよう」と言う考え方よりはもう少しすっきりするかもしれない、と感じています。

でも、この主体を「難聴のある子どもたち」としてみると、とても大変な作業がたくさんあることに気がつきます。米国の難聴児の教育資料を検索していると、セルフアドボカシーに関するたくさんの教材が出てきて、小さい頃からセルフアドボカシーの力を見守り、育む事に力を入れていることが分かります。

私たちが難聴児支援のために作っているKIDS*FIRSTでも、こうしたセルフアドボカシーを支援していきたいと考えています。まだまだ力不足で、出来ていない点も多いのですが、少しでも子どもたちの力になれれば、と考えています。