会報5月号巻頭言

令和の時代の始まりに
                      岡山県難聴者協会 会長 妹尾克己
 五月一日から元号が「令和」になる。新元号が決まるまで、メディアでは様々な言説が飛び交った。「令和」と発表されて後も色々な意見がでてそのたびに、納得したり戸惑ったりしました。「令和」の考案者は万葉集研究の第一人者で国文学者の中西進氏であるらしい。4月20日の朝日新聞「オピニオン」欄に中西さんのインタビュー記事が掲載され、それを読んで「令和」に込められた意味を掴むことが出来たと思うので紹介させていただく。
 出典は「万葉集巻五、梅花の歌三十二首併せて序」で、その現代語訳(中西進訳)は以下の通り。「初春令月(時あたかも新春の好き月)、気淑風和(空気は美しく風はやわらかに)、梅は美女の鏡の前に装う白粉のごとく白く咲き、蘭は身を飾った香の如きかおりをただよわせている。」
 「令」という言葉は、この文中の「令月」から採られ、その意味は、「令とは善のこと」で、「品格のあること、尊敬を受けること。そういう意味で『よいこと』が令である」とのこと。令に一番近い日本語は「うるわしい」という言葉で、これは「整っている美しさ」のことだそうである。令(うるわ)しく平和に生きる日本への希望のメッセージも込められているとのことである。1929年生まれの中西氏は、中学生の時東京で空襲に遭い、戦禍を嫌というほど体験した。そのことがこの言葉に込められたメッセージになっているという。とはいえ、元号は日本の文化であり、単なる個人的な思いを越えた国の『生命の索引』という文化的な装置でもあるという。従来元号は中国の漢籍から採られてきたが、今回初めて国書から採られたことが話題になっている。しかしこれを安易にナショナリズムと結びつけることに対して中西さんは警告を発している。漢字文化圏という東アジアの文化の中に日本はあるのであって、そういう国際性を持ちつつ、独自の理想を掲げていくことが望ましい、と語られている。
 新しい元号の始まりに思いをいたし、「外部にあるものを取り込んで新しい輝きに作り替え、それによって内部から輝く」日本文化の特性に思いをいたすことができ、感慨深いものがありました。