「難聴対策としての社会的処方」

公益財団法人 岡山県難聴者協会 会長  森 俊己

 落ち着いたかに見えたコロナウイルスの蔓延でしたが、このところ再び感染者が増えてきました。社会では、あらゆる活動が停滞を余儀なくされ、貧困、そして孤独の問題が深刻化しているそうです。
 政府が閣議決定した骨太の方針2022に盛り込まれた「社会的処方」に関する記事を読みました。「病気の予防や治療には、的確に診断し、医療を提供するだけでは限界がある。背景にある社会的な要因を解決していく必要がある」と順天堂大学の武田裕子教授は指摘されています。薬の処方だけではなく、健やかに過ごすためのサポートを得られるようにすること。気軽に話せる人とのつながりやコミュニティの力で問題に対処していくのが社会的処方の考え方です。岡山大学の故・高原滋夫教授は、難聴学級の開設、かなりや学園の設置など、社会的処方という言葉がなかった時代から実践されていたのだと理解しています。
 また、昨年末に決定した政府の重点計画には、社会環境の変化により強いられた孤独・孤立は当事者の自助努力に委ねられるべき問題ではなく、社会全体で対応すべき問題であると示されています。そして、私たちが「難聴」を語る時、「孤独」「社会からの孤立」という言葉を切り離すことはできないのです。
 最近、協会や同障者の集まりで、難聴者の声を聞く機会がありました。淡々と、時に笑顔を見せながら、苦しかったことを遠慮がちに話される皆さんは、一様に家族の存在、同じ仲間の存在がどれだけ支えになったかを話され、胸を打つものがありました。
 コロナで会う機会が激減し、つながりが希薄になってしまうために、それぞれの地域で孤立してしまうのを危惧しています。声をあげて社会に訴え、理解を求めるためには、屈託なく何でも話せる仲間が必要です。当会はそのために存在しているといっても良いと、私は思っています。難聴啓発の機会はほとんどなく、地域に埋もれている難聴者も多いでしょう。社会の壁を開くのは、皆さんの少しの勇気で届ける「生の声」です。