2020年4月号巻頭言

この20年の聴覚代償機器の進歩

岡山大学耳鼻咽喉・頭頸部外科学教授   西﨑和則

私が1999年12月に岡山大学耳鼻咽喉科学教授に就任して20年が過ぎ,この3月で退職となったが,この間の聴覚補償機器の発達について述べたい.人工内耳は感覚障害を代償することができる唯一の人工臓器である.就任当時にはすでに人工内耳は両側性の重度感音難聴者に全国規模で実施されていた.全国での手術件数もその当時の年200件から現在は1000件に増加し,適応も両側に拡大され,対象聴力も引き下げられ,また低音に残聴が残る場合には補聴器と人工内耳のハイブリッドな機種(EAS)も開発された.しかしながら,人工内耳手術の実施数の増大に伴い,人工内耳の限界も明らかになってきている.とくに小児の重度難聴者に対して人工内耳の効果が限界的である場合に,適切な介入を適切な時期にどのように実施していくのかは今後の重要な検討課題である.

伝音および混合性難聴に対しては,骨固定型補聴器(Baha®)は欧米では広く1990年代から使用されてきたが,本邦ではデバイスラグのため2014年から保険適応となった.完全埋め込み型の人工中耳VSB(Vibrant Soundbridge®)も現在では使用できる.

従来からある補聴器については軟骨伝導補聴器やAI補聴器などが登場してきている.AI補聴器は高いものでは1台100万円を超えるものまである.AI補聴器は会議などのような多人数による会話が行われる場面ではその優れた指向性のため従来型の補聴器に比べて有用性は高いが,加齢性難聴に特徴的な明瞭度や時間分解能を改善させることはいまだ難しく,1対1の会話において値段相当の価値を有するにはさらなる改良が必要であろう.

聴覚補償機器についてはまだまだ問題点はあるが,この20年を総括すれば聴覚補償機器の発達は他の感覚領域に比べて目覚ましいものがあった.次の20年でのさらなる発達を期待したい.