2020年3月号巻頭言

軟骨伝導補聴器

福田章一郎

 

昨年3月まで在職した川崎医療福祉大学で年一回、岡山県言語聴覚士会聴覚部会主催の補聴器、人工内耳のワークショップを開催していました。多くのメーカーに参加していただき、毎年新しい機器や機能の情報を得る機会として非常に貴重な会となっており、今後も可能な限り継続したいと考えています。

その中で、一昨年新しいタイプの補聴器「軟骨伝導補聴器」が誕生し、すでに装用されたかたもでてきています。軟骨伝導補聴器は補聴器本体と振動子ユニットからなっており、耳の軟骨部にユニットを圧着させ振動を通し脳にことばを届けます。従来の、気導経路や、骨導経路を通じて補聴するタイプの補聴器とは異なり、軟骨伝導経路を利用したものです。一応適応は、伝音難聴と軽中等度難聴ということになっています。これまで両外耳道閉鎖症や小耳症の方々など、カチューシャやヘッドバンドによって振動端子を固定してきた補聴器装用者や、耳疾患があり補聴器の活用が制限されていた方々にとって一つの選択肢になると考えられています。また、一側性難聴や埋め込み骨導(BAHA)候補者などへも適応の範囲が広がると予想されます。

ただ、装用までの手順はいささか複雑です。補聴器のフィッティングに関しては従来と変わりませんが、聴力検査や耳のCT写真を撮ったり、音の伝導効率を高めるための様々な手順や工夫など医療的な知識が必要です。したがって、取り扱い医療機関で調整することが推奨されています。

CT検査による骨の状態から、どのような方により装用効果が高いのかという判定法や、補聴器の適合手順や装用手順、また補聴評価法などまだまだ改善がしなければならないことも多いのが現状です。医療において細分化とよく言われますが、福祉にとってもそれぞれのニーズの合わせたサービスの選択肢が増え、内容がさらに充実していくことが求められる中、軟骨伝導補聴器の適応が少しずつでも広がってくれればと願っています。